仕事のミスで損害賠償を会社から請求された場合、どうすればいいのでしょうか。個人ではちょっと支払えない金額であったり、仮に社員のミスから生まれた損害であっても、そもそも一介の従業員が会社の損害を補填する必要があるのかも疑問です。
そこで、今回は会社から損害賠償を請求された場合の解決方法をご紹介します。
目次
社員が仕事のミスで会社から損害賠償を請求されることはある?
会社で働く社員が業務上の仕事のミスによって、会社から損害賠償を請求される例は、実はいくつもあります。とりわけ多いのは営業職における仕事のミス。例えば下記のような事例はよく見受けられます。
- 納品日を間違えて先方が受け取り拒否をして商品在庫を抱えてしまった場合
- 商品を客先に届ける道中、車の事故に遭い商品を破損してしまった
- 商品が売れないために、自分で買うはめになった
その他にも運送会社での物損事故、対人事故による賠償請求なども仕事のミスとしてあり得ます。このような形で従業員が会社から損害を負担するよう請求される事態になったとき、まず確認してほしいのは、「自分はこの会社の正社員であるか否か」です。
フリーランス・個人事業主・業務委託契約は別問題
フリーランスや個人事業主は業務委託で会社と有期契約をしており、これには社員のような労働法が適用されません。そのため、ここで解説する事案は、あくまでも当該会社の正社員であることは認識しておいてください。
会社から従業員への損害賠償が認められてしまうケースを紹介
会社が従業員に対して損害賠償を請求する場合は、ほとんどのケースで大きな制限があります。仮に会社が多額の損失を被ったからといって、従業員に請求できる金額は、あくまでも現実的に従業員が支払うことができる金額にとどまります。
一方で下記のような事案の場合は、会社は従業員に対して損害賠償を請求する権利を持ち、実際に裁判でも支払い命令が下る事例となります。
・従業員が交通事故を起こしたとき
被害者への慰謝料の支払いはもちろん、被害者が会社に賠償金を請求した際も、のちに会社からその分の支払いの補填を求められることがあります。支払い割合は2割程度が平均相場です。
・自分の不注意によって会社に損害を与えてしまった
「居眠り運転によって事故を起こし、車に積んでいた納品物が破損してしまった」のようなときは、残念ながら会社から請求された場合は、多少なりとも支払う必要があるかもしれません。
・自分が絶対に必要なプロジェクトの最中に辞めてしまい、会社が多額の損害を負った
こちらは一般の従業員には当てはまりません。従業員に支払い義務が生じる可能性があるのは、会社の一部とみなされる役員クラスの人となります。
会社から損害賠償を請求されたけど払う必要はある?
上記のような業務上の仕事のミスで社員が会社に損害を与えてしまい、会社から損害賠償を請求された場合、社員は言われた通りに支払わなければならないのでしょうか。
まず、会社は社員に損害賠償をすることはできることは覚えておいてください。昨今はバカッターなども増えてきており、会社が社員のせいで不利益(=金銭的な損害)を被る事例も増えてきました。
無論会社が泣き寝入りしなければならないことはなく、当該従業員に対して、正当に損害賠償を請求することができます。
会社から損害賠償を請求されても、言われた金額を払う必要はない
基本的に会社側が社員に損害を請求することができたとしても、そのすべてを社員が支払う必要はありません。社員は会社の利益のために働き、その仕事中のミスで損害を与えてしまったのですから、会社側は利益だけではなく不利益も享受しなければならないと考えられます。
もちろん上記のバカッターのような、会社側が一方的な被害者の場合は、ある程度多くの金額を損害賠償請求することができます。
裁判になった際の損害賠償額の決め方
しかし、問題となるのが、仕事のミスといっても、当該社員にどの程度の過失があるのか、また会社側にも過失はなかったのか、などが焦点となります。裁判では、さらに会社側の姿勢と社員の日ごろの勤務状況・勤務態度によって、社員と会社の損害賠償の負担率が決まります。
会社側が毎月の給与から損害分を天引きはじめた。これっていいの?
仕事のミスで会社に損害を与えてしまった場合、ブラックな会社であれば、「毎月の給料から天引きしておくからな」と言われ、問答無用で支払う義務を負わされることもしばしばあります。しかし、これは違法。労働法第24条には
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
労働基準法WEB版
とあります。俗に言う「全額支払いの原則」と呼ばれるもので、賃金から会社の身勝手な理由により賠償を差し引くことは禁止されています。きちんと訴えれば全額返金してくれます。
辞めた会社から損害賠償請求されている場合
辞めた会社から損害賠償を請求されることもあるでしょう。大抵は嫌がらせやパワハラ上司の単独での行動ですが、この場合は、辞めた従業員は応じる必要があるのでしょうか。
まず、辞めた会社から損害賠償を請求された場合は、その内容と理由次第となります。例えば自分が辞めたことによって、何かしらの不利益を会社が被ったと主張するのであれば、それは無視してかまいません。会社側の自分勝手の主張に過ぎず、裁判でも認められるケースはなく、場合によってはこちら側が慰謝料を請求することも可能です。
また、「勝手に辞めたせいで、後釜の採用にかかった費用を請求する」という理由も考えられます。こちらは少し複雑で、まず一般的な無期限雇用の正社員に対しては通用しない理由となるので、無視することができます。
しかし、有期雇用で、契約期間中にお互いの同意なく勝手に辞めた(いわゆるバックレ)ときは、裁判に発展すると従業員に分が悪くなります。
会社から損害賠償を請求されたときの負担率の考え方
会社から損害賠償を請求されたさい、まず、自分も認める仕事のミスによる損害賠償の負担率は、上述したように、社員と会社の過失の度合いと、日ごろの勤務状況によって変動します。会社側からしてみれば、「社員が100%悪いんだ」と思うかもしれませんが、社員のミスを防ぐ対策を日ごろからしていたのかを裁判では具体的に判断されます。
- 社員がミス・事故をしたときの対策として、何かしらの保険に加入していたかどうか
- 仕事のミスは社員の集中力不足の場合、日ごろから過度な残業を強いていたり、パワハラをしていなかったかどうか
- 社員の精神状況を把握して、何かしらの対策(カウンセラーを用意するなど)を講じていたか
などが考えられます。また、社員も日ごろの勤務態度はよかったかどうか、これまでも似たような仕事のミスはあったかどうか、基本は毎日出勤していたかどうか、などが調査されます。
裁判というのは法律に基づいて機械的に判決や損害賠償金額が決まるものと考えている人もいますが、実際は異なります。裁判長も人間ですので、社員及び会社側の対応と態度、印象なども考慮されます。
会社から多額の損害賠償を請求されても、実際の支払いは2割弱
会社から高額な損害賠償を請求されても、いままでの裁判の判例を見てみると、社員に支払いが命じられるのはどんなに高くとも2割以下となります。
しかし、例えば1億円の損害賠償を会社から請求されて裁判に発展した場合、2割といっても2000万円で、個人が払える額を超えてしまいますね。裁判ではこれも考慮されますので、実際の支払い金額はさらに下がる可能性が高いです。
会社から損害賠償を請求された場合は無視が駄目な理由
会社から損害賠償を請求された場合、「私は悪くないから」と無視する人がいますが、これは大きなリスクがあります。もし会社側が訴訟を起こして裁判に発展したとすると、貴方は必ず裁判に出廷しなければなりません。
もし出廷を無視すると、裁判では会社側の要求を全面的に認めることとなるので、法律的に従業員は支払いの義務が生じますし、支払わなかったら財産の差し押さえにまで発展します。
会社が社員に多く損害賠償を払わせようとしたときの解決策
社員が仕事のミスで、会社から損害賠償を請求された場合、実は裁判に発展するケースはそれほど多くありません。なぜなら、会社も顧問弁護士や税理士、行政書士を雇っていますし、彼らも「裁判をしたら少額しか払わせることはできない」ことを会社にアドバイスしています。
そのため、ほとんどの会社は保身のために、より多くの金額を社員に負担させたいがため、裁判は脅し文句程度とし、実際は示談で支払うよう請求してきます。法律を知らない社員によっては、会社の懇意だと受け取る人もいるでしょうし、「裁判になったらもっと高額な請求が待っている」と恐れて、会社に言われたままの損害賠償請求に対応してしまうこともあるでしょう。
しかし、それでは社員はたまったものではありませんね。そこでおすすめしたいのが、「弁護士事務所への依頼」です。弁護士といっても民間弁護士となるので、料金は数万円から歩合で十数万円で引き受けてくれるところがほとんど(裁判に発展すると、追加料金がかかる)。
「弁護士に電話するのは勇気が要る」、「電話ではうまく伝えられないかも」という方は、弁護士の中にはLINEのテキストチャットで相談できるところもあるので、こちらを利用するといいでしょう。また、会社側に過失が多い場合は、「仕事のミスを社員に押し付けるなんて……。こんな会社すぐにでも辞めたい」と考えることもあるでしょう。そんなときは、同弁護士に退職代行の依頼もするといいでしょう。
弁護士に依頼する場合の流れ
- LINEで弁護士に相談する
- テキストチャットで相談内容を話す
- 詳細な料金を教えてくれるので、依頼するか決める
- 依頼したら、弁護士が依頼者に代わって会社の担当者や代表に話をつけてくれる
- 退職代行も依頼をした場合は、退職の旨も伝えてくれる
退職代行も依頼すれば、未払いの残業代、有給休暇の消化、退職金の受け取りなどもできますので、こちらも同時に利用するといいでしょう。
基本は裁判ではなく示談交渉をする
とはいえ、弁護士事務所に依頼したとしても、基本的に裁判で最小の請求を狙うのではなく、示談交渉に持ち込み解決を図るのが原則です。
なぜなら、裁判に発展すると弁護士費用も掛かりますし、判決が下るまでに時間もかかり、次第に社員(依頼者)も精神的に参ってしまうのが常となります。
弁護士を味方に付ければ、会社も脅すことはできませんし、もしマスコミに知られたら、被った損害以上の信用が失われる可能性もあります。そのため、場合によってはほとんど損害賠償を支払う必要がなくなることもざらにあります。
会社から賠償金請求を脅されている。逆にし返すことも可能
会社から不当と思われる賠償金請求を執拗にされている場合は、逆にパワハラや精神的抑圧を受けたことを事由に賠償金請求をし返すこともできます。
基本的に会社側が従業員に対して賠償金を請求するというのは、従業員の心情を考えると、かなり深刻で重い事態となります。しかし、会社や上司は相手を脅す意味などで気軽に賠償金請求をしてくるので、それを逆手にとって慰謝料を請求できる事例もいくつかあります。
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